世論という幻想

2024年12月、総務省が1,800人を対象に実施した全国調査の結果は、ひとつの事実を突きつけた。10代の75.7%が「いち早く世の中のできごとを知る」ためにインターネットを使い、70代の78.2%が同じ目的でテレビをつける。10代の30.7%はニュースを「いずれの方法でも読んでいない」。同じ日本に暮らしていながら、私たちは文字通り「別の現実」を見ている。

では、この国の「世論」とは、いったい誰の意見なのか。

沈黙の螺旋──声なき多数派は見えない

1974年、ドイツの政治学者エリザベート・ノエル=ノイマンは「沈黙の螺旋」(社会的孤立を恐れて少数派が発言を控える現象)という理論を提唱した。人は自分の意見が多数派か少数派かを「準統計的感覚」で察知し、少数派だと感じれば口を閉ざす。すると多数派に見える意見がさらに声を大きくし、実際の分布とは無関係に「世論」が形成されていく。

この理論が描いた構造と整合的な現象を、総務省の最新調査データは映し出している。X(旧Twitter)の利用率は全年代で43.3%に達するが、実際に「書き込む・投稿する」のはわずか10.7%である。残りの約75%は閲覧のみだ。YouTubeでは利用者の80.8%のうち投稿者はわずか3.6%。つまり、SNS上の「世論」は全体の1割にも満たない能動的な発信者が作り出している。

フォールスコンセンサス──「みんなそう思っている」の錯覚

1977年、スタンフォード大学のリー・ロスらは「フォールスコンセンサス効果」(自分の意見を他者も共有していると過大推定する認知バイアス)を実証した。4つの実験を通じて、人は自分の態度や行動を他者も同様に持っていると系統的に過大推定することが確認された。この偏りは教育水準や知性とは無関係に生じる。

SNSはこの錯覚を増幅する装置として機能する。2016年、南カリフォルニア大学のクリスティーナ・レルマンらは「多数派の幻想」(ネットワーク構造が少数の行動を多数に見せる現象)を数理モデルで示した。ソーシャルネットワークでは、フォロワーの多いアカウントの投稿が不釣り合いに多くの人のタイムラインに出現する。その結果、実際にはごく少数が支持する意見であっても、ほとんどのユーザーの「周囲」では多数派に見えるという構造的歪みが生じる。

メディアが決める「何を考えるか」

1972年、マクスウェル・マコームズとドナルド・ショーは、メディアは人々に「何を考えるか」ではなく「何について考えるか」を決定するという「議題設定」理論を確立した。チャペルヒルでの選挙研究で、有権者の争点認識がメディア報道の優先順位とほぼ一致することを実証したのである。

しかし、この議題設定の構造は根本的に変わった。2014年、ノイマンらのビッグデータ分析は、伝統メディアとソーシャルメディアの議題が「異なる太鼓を叩いている」ことを明らかにした。新聞が重視する話題とTwitterで拡散する話題は双方向的に影響し合うが、その動態は複雑で、もはや一方向的な「メディア→大衆」という単純な構図は成り立たない。

総務省の調査はこの断絶を数字で裏づける。「信頼できる情報を得る」ために最も利用するメディアとして、20代・30代は「インターネット」を選び(46.3%と47.3%)、50代以上は「テレビ」を選ぶ(57.6%〜64.1%)。メディアへの信頼度もまた世代で分裂する。新聞を「信頼できる」とする割合は全年代で59.9%と最も高いが、30代では43.0%にとどまり、70代の71.1%とは28ポイントもの開きがある。テレビも同様に、30代の43.5%に対して70代は72.1%である。

異なる世代が異なるメディアを信頼し、異なる議題に触れている──この状態で「世論」の統一的な把握は極めて困難だと考えられる。

フィルターバブルの実像──思ったほど強くないが、無害でもない

2011年にイーライ・パリサーが「フィルターバブル」(アルゴリズムが利用者の好みに合う情報だけを表示する閉鎖的環境)という概念を提唱して以来、アルゴリズムが民主主義を蝕むという懸念が広がった。だが実証研究は、この直感に反する結果を突きつけている。

2016年、フラクスマンらが5万人の米国ニュース消費者のブラウジングデータを分析したところ、ソーシャルメディアと検索エンジンはむしろイデオロギー的に多様なコンテンツへの接触を増やしていた。ただし同時に、個人間のイデオロギー的距離も拡大させるという両義的な結果であった。

2021年、フレッチャーらが7カ国を対象に実施した調査では、政治的に党派性の高いニュースのエコーチェンバー(反対意見が遮断された閉鎖空間)に実際に住んでいるインターネット利用者はわずか約5%であった。主流メディアが依然として支配的であり、「フィルターバブル」は現実よりも言説の中で過大評価されていた。

しかし、これはアルゴリズムが無害であることを意味しない。2020年、哲学者のC・ティ・グエンは「認識的バブル」と「エコーチェンバー」の区別を提唱した。バブルは単に反対意見に触れないだけだが、エコーチェンバーは外部の情報源の信頼性を積極的に掘り崩す。前者は新しい情報で破れるが、後者は修正に対して免疫を持つ。

2023年の大規模実験──アルゴリズムを変えても分極化は変わらない

2023年、Scienceに同時掲載された4本の論文が、この議論に決定的なデータを提供した。Facebookの全面協力のもと、2020年米大統領選期間中に数万人規模のランダム化フィールド実験が行われたのである。

ゲスらの実験では、Facebookの「リシェア」コンテンツを除去すると、政治ニュースへの接触は大幅に減少した──しかし政治的態度や分極化には有意な変化が見られなかった。別の実験では、アルゴリズムによるフィードを時系列順のフィードに置き換えても、やはり分極化には影響がなかった。

ナイハンらの研究は、2億800万人の米国Facebookユーザーのデータと2万3千人の実験参加者を分析し、同質的なコンテンツの露出を3分の1に削減しても、感情的分極化や虚偽の信念に測定可能な変化は生じないことを確認した。

ゴンサレス=バイヨンらは2億人のデータから、保守派とリベラル派のユーザーが根本的に非対称な情報エコシステムに住んでいることを突き止めた。保守的な情報空間はイデオロギー的分離がより強く、ファクトチェッカーが誤情報とラベルしたコンテンツの大部分が集中していた。

つまり、アルゴリズムは情報を偏らせるが、それが分極化の原因とは限らない。分極化はアルゴリズム以前から存在し、それを取り除いても消えない──問題はより根深いのである。

多元的無知──本当の多数派は沈黙している

ここで見落としてはならない現象がある。「多元的無知」(集団の構成員の多くが私的には規範に疑問を持ちながら、他の全員がそれを支持していると誤認する現象)である。1993年、プレンティスとミラーはプリンストン大学の学生を対象に、飲酒文化への態度を調査した。学生の多くは個人的にはキャンパスの飲酒規範に違和感を抱いていたが、「他の学生はこの規範に快適だ」と思い込んでいた。実際の多数派意見ではなく、多数派意見の誤認が行動を規定していたのである。

2023年、ミラーはこの研究を100年分のレビューにまとめ、デジタル環境が多元的無知の新しい形態を生み出していることを指摘した。SNS上では発言する人の意見が集団全体の意見と見なされやすく、沈黙する多数派の存在が構造的に不可視化される。

「逆効果」という最も厄介な発見

では、フィルターバブルの解消のために、反対意見に積極的に触れればよいのか。2018年、デューク大学のベイルらが実施したランダム化フィールド実験は、この直感的な処方箋を否定した。共和党支持者にリベラルなTwitterアカウントを、民主党支持者に保守的なアカウントをフォローさせたところ、共和党支持者はより保守的な方向にシフトした。反対意見への接触が態度を中和するどころか、逆効果をもたらしたのである。

1999年、クランとサンスティンが提唱した「利用可能性カスケード」(あるリスクへの懸念表明がさらなる懸念表明を引き起こし、客観的証拠とは無関係にリスク認知が急速に膨張する自己強化プロセス)は、SNS時代にいっそう強力に作動しうる。少数の「利用可能性の起業家」が意図的にカスケードを起動し、少数派の道徳的パニックを見かけ上の合意へと変換できる。

日本のメディア断層──総務省データが示す分裂地図

総務省の令和6年度調査に立ち返ろう。このデータは、日本社会のメディア断層の深さを余すところなく描き出している。

平日のインターネット利用時間は全年代平均で181.8分に達し、テレビ(リアルタイム)視聴時間の154.7分を初めて上回った。しかしこの平均値は実態を覆い隠す。10代のネット利用時間は243.4分で、テレビ視聴39.7分の6倍を超える。70代はその鏡像であり、テレビ310.7分に対してネット72.4分である。

ニュースの入手経路はさらに大きく分裂している。「ポータルサイトによるニュース配信」(Yahoo!ニュースなど)が全年代で68.3%と最も高く、次いで「ソーシャルメディアによるニュース配信」が44.2%、「紙の新聞」が36.3%と続く。最も利用されるニュース源として「ポータルサイト」を選んだ割合は42.2%、「紙の新聞」は21.3%であり、新聞はもはやニュースの主要チャネルではない。

そしてメディアへの信頼度は、このニュース源の分裂とねじれた関係にある。新聞を「信頼できる」とする割合が全年代で59.9%と最も高いにもかかわらず、実際に紙の新聞を読んでいるのは36.3%にすぎない。つまり、最も信頼されているメディアが最も利用されていないという逆説が生じている。

政治・経済問題における信頼度を見ると、テレビ78.1%、新聞52.3%に対して、ソーシャルメディアは19.5%にとどまる。にもかかわらず、10代から40代の多くはソーシャルメディア経由でニュースに接触している。信頼していないメディアから情報を得ている──この矛盾は、現代の情報環境の構造的な問題を映し出している。

世論は「発見」されるのではなく「構成」される

以上の知見を総合すると、「世論」とは社会に偏在する意見の正確な反映ではなく、複数のメカニズムによって「構成」されるものであることが見えてくる。

沈黙の螺旋が少数派の声を抑圧し、フォールスコンセンサス効果が自分と同意見の他者を過大推定させ、多元的無知が本当の多数派意見を不可視にする。そこにアルゴリズムによる増幅と、ネットワーク構造による「多数派の幻想」が加わり、実在しない「みんなの意見」が構成される。

だが、2023年の大規模実験群が示した通り、アルゴリズムを排除しても分極化は解消しない。問題はテクノロジーだけでなく、私たちの認知構造そのものに埋め込まれている。プレンティスとミラーの研究をはじめとする多くの介入研究が示すように、正確な社会規範を伝えることで行動が変化する場合がある。「実際にはほとんどの人がそこまで極端ではない」という事実を可視化すること──それが、世論の幻想を解く最初の一歩である。

総務省の調査報告書は109ページにわたって、日本人のメディア接触行動を詳細に記録している。しかし、そこに記された数字が最も雄弁に語るのは、「日本人の世論」というひとつのまとまった存在は、もはやどこにも見つからないということだ。

 


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– URL: 総務省情報通信政策研究所