子育て中の親なら一度は耳にしたことがあるだろう。「砂糖を摂りすぎると子供が興奮して手がつけられなくなる」という話だ。誕生日パーティーでケーキを食べた後の子供たちの騒々しさを見れば、誰もが納得してしまいそうなこの通説。しかし、科学的な検証結果は私たちの常識を覆すものだった。
23の研究が明かした驚きの結果砂糖と子供の行動に関する科学的検証として、これまでに行われた23の研究を詳細に分析したメタ分析(複数の研究結果を統合して分析する手法)の結果が報告されている。このうち16の研究は二重盲検試験(研究者も参加者も何を摂取したかわからない状態で行われる最も信頼性の高い手法)で実施されたものである。結果は明確だった。砂糖摂取と子供の行動変化には統計的に有意な関連は認められないことが確認されている。さらに、砂糖摂取と認知機能の変化についても関連なし、注意欠陥多動性障害(ADHD:集中力の欠如や多動性を特徴とする発達障害)の症状との関連についても関連なしという結果が明らかになっている。つまり、砂糖を摂取したからといって、子供が特別に活発になったり、集中力を失ったり、多動的になったりすることはないのである。親の思い込みが子供の行動を変える?さらに興味深い実験結果も報告されている。研究者たちは、子供たちに実際には無糖の飲料を与えながら、親には「砂糖入り飲料を与えた」と告げる実験を行った。その結果、親たちは子供の行動を「より活動的」と評価することが示されている。さらに驚くべきことに、砂糖を摂取したと信じた親たちは、子供との相互作用も変化させ、より厳しく接するようになったという結果が出ている。これは親の期待や思い込みが、子供の行動の解釈だけでなく、実際の親子間のやり取りまで変化させてしまうことを示している。なぜ「砂糖神話」は広まったのかでは、なぜこの通説がこれほど広く信じられているのだろうか。その背景には私たちの日常生活に潜む錯覚がある。子供たちが砂糖を多く摂取する場面を思い浮かべてみよう。誕生日会、お祭り、クリスマスパーティー、ハロウィンなど、どれも子供たちが自然と興奮する楽しいイベントばかりだ。興奮の真の原因はイベント自体の楽しさや非日常感であり、砂糖ではないのだが、私たちは砂糖摂取と興奮状態が同時に起こることで、両者に因果関係があると錯覚してしまう。さらに、確証バイアス(自分の信念を支持する情報ばかりを重視してしまう心理的傾向)という心理現象も関与している。「砂糖を摂ると興奮する」と信じていると、砂糖を摂取した子供の行動を注意深く観察し、少しでも活発な様子を見せれば「やはりそうだ」と感じてしまう。一方で、砂糖を摂っても変化がない場合は記憶に残りにくいため、通説を裏付ける事例ばかりが印象に残ってしまうのだ。砂糖の本当のリスクとは砂糖が行動に即時的な影響を与えないからといって、無制限に摂取してよいわけではない。砂糖の過剰摂取は虫歯のリスクを高めることが確認されており、継続的な過剰摂取は肥満につながることが明らかになっている。これらは行動への即時的影響とは異なり、長期的な健康への影響として十分に注意すべき問題である。実践的なアドバイスこの研究結果を踏まえ、親として心がけたいことは何だろうか。まず、砂糖摂取後の子供の行動変化を過度に心配する必要はない。子供がパーティーで興奮しているのは、楽しい時間を過ごしているからであり、砂糖のせいではないのだ。むしろ重要なのは、砂糖に対する思い込みが子供への接し方を変えてしまわないよう注意することだ。「砂糖を摂ったから」という理由で必要以上に厳しく接したり、子供の自然な感情表現を抑制したりしないよう心がけたい。砂糖との付き合い方については、行動への影響ではなく、歯の健康や適切なカロリー摂取という観点から考えることが大切だ。バランスの取れた食事の一部として、適度な範囲で楽しむことが、子供にとって最も健全なアプローチと言えるだろう。この知見を活かすヒントパーティーなどで子供が興奮していても「砂糖のせい」と決めつけず、楽しい環境による自然な反応として受け止める砂糖に対する先入観を持たず、子供の行動を客観的に観察する習慣をつける砂糖の制限は行動管理ではなく、虫歯予防や栄養バランスの観点から行う「砂糖を摂ったから落ち着きなさい」といった声かけを避け、子供の感情を否定しない甘いものは完全に禁止せず、適度な量を家族で楽しむ時間として活用する参考文献Effects of sugar on behavior and cognition in children: a meta-analysisJAMA 1995; 274(20): 1617-1621https://jamanetwork.com/journals/jama/article-abstract/391812エビデンスレベル: メタアナリシス/システマティックレビュー
