都市緑地へのアクセスは平等に分配されているのか。そしてその不平等は、住民の幸福度にどう影響するのか。中南大学、同済大学、シンガポール国立大学の研究チームが、中国・長沙市で実施した調査が、この問いに対する新たな知見を提示している。
環境正義理論と活動空間の統合
従来の研究では、緑地へのアクセスが「住居からの距離」で測定されてきた。しかし、人々は自宅周辺だけで生活しているわけではない。通勤、買い物、余暇活動—日常の活動範囲は個人によって大きく異なる。
Liu Shaoboらの研究チームは、この「活動空間」(個人が日常的に移動・活動する範囲)の視点を環境正義理論と統合した新しい分析フレームワークを構築した。Frontiers誌に発表されたこの研究は、単なる「近さ」ではなく、人々が実際にどのように緑地と関わっているかを捉える試みだ。
524人、3つの距離グループ
研究チームは長沙市の5つの公園(総合公園、特殊公園、線形公園、コミュニティ公園)を対象に、524人の住民から調査データを収集した。
回答者は活動範囲に基づいて3つのグループに分類された:500m〜1km、1〜3km、3km以上。この分類により、日常の行動パターンが緑地へのアクセスと幸福度の関係にどう影響するかを検証したのである。
質が曝露を、曝露が正義認識を
構造方程式モデリング(SEM:変数間の因果関係を数値で検証する統計手法)による分析の結果、明確な因果経路が示された。
緑地の「質」は、緑地への「曝露」(どれだけ緑地と接触するか)と「社会的便益」(コミュニティ形成、精神的安定など)に有意な影響を与えていることが確認された。そして緑地への曝露は、「緑地正義の認識」—つまり緑地が公平に分配されているという感覚—を高め、それが最終的にウェルビーイングの向上につながっていることが示されている。
注目すべきなのは、「質→曝露」「質→便益」「曝露→正義認識」という3つの経路が、すべての距離グループで安定して確認されたことだ。活動範囲が広い人も狭い人も、同じメカニズムで緑地から恩恵を受けている可能性がある。
中距離グループでのみ現れる所得効果
一方で、グループ間の差異も発見された。年収が緑地曝露に正の影響を与えるのは、活動範囲が1〜3kmの中距離グループに限定されることが示されている。
この結果は、ある程度の行動範囲を持つ層では、経済的資源が緑地アクセスの格差を生む可能性を示唆している。近距離で生活が完結する層や、広範囲に移動する層では、所得の影響は相対的に小さいとみられる。
公平性の「認識」が鍵
この研究が示す最も重要な知見は、緑地の物理的な分布だけでなく、その分配が「公平である」と認識されることが、ウェルビーイングに影響するという点である。
都市計画において、緑地を増やすことは重要だ。しかしそれだけでは十分ではない。住民が「自分にも公平にアクセスできる」と感じられるような設計と、そのコミュニケーションが求められる。
この知見を活かすヒント
この研究結果を踏まえ、都市計画や緑地政策において考慮すべきポイントは以下の通りだ:
- 活動空間を考慮した緑地配置:住居からの距離だけでなく、通勤・通学路や生活圏内での緑地アクセスを検討する
- 緑地の質の向上:単に緑地を増やすだけでなく、利用しやすい質の高い緑地を整備する
- 公平性の可視化:緑地分配の公平性について、住民に分かりやすく情報提供する
- 中間層への配慮:活動範囲1〜3kmの層で所得格差が影響するため、この層へのアクセス改善策を検討する
参照: Deconstructing urban green justice and well-being: a multi-group structural equation modeling analysis based on the activity space perspective – PMC / Frontiers (2025)
