「昔の曲は良かった」——この言葉を口にしたことがある人は多いだろう。10代に聴いた音楽は特別に感じ、最新のヒット曲には心が動かない。これは単なる懐古趣味なのか、それとも脳に刻まれた不変の嗜好なのか。25万人以上を対象とした縦断研究と神経科学の知見は、より複雑で興味深い答えを示している。音楽の好みは変わる。しかし、青春期に聴いた音楽への愛着は、生涯を通じて消えることがない。


「音楽的回想バンプ」:16〜20歳の音楽が特別な理由

心理学には「回想バンプ(reminiscence bump)」という現象がある。これは、人が青年期から成人初期(おおよそ10代後半〜20代前半)に経験した出来事を、他の時期よりも鮮明に記憶する傾向を指す。この現象は音楽にも当てはまる。

2023年にMusic Perception誌に掲載されたレンウィック(Renwick)らの研究は、102カ国4,824名から24,120曲の回想データを収集した。これは音楽的回想バンプに関する史上最大規模の調査である。結果は明確だった。18歳から74歳まで、どの年齢層においても、「最も思い出深い曲」として挙げられたのは16〜20歳の頃に初めて聴いた曲だった。

この効果は以下の点で普遍的であることが確認されている:

  • 年齢を超えて普遍的:若者も高齢者も、16〜20歳の音楽を最も強く想起する
  • 性別を超えて普遍的:男女ともに同様のパターンを示す(ただし男性の方がピークが顕著)
  • 文化を超えて普遍的:米国、英国、ルーマニア、フィリピンなど異なる文化圏で確認されている
  • ジャンルを超えて普遍的:ダンス、メタル、ポップ、ロック——ジャンルに関係なく現象が発生する

102カ国という規模と、文化・年齢・性別・ジャンルを横断した一貫性から、音楽的回想バンプは生物学的にも文化的にも普遍的な現象であると結論づけられている。

なぜ青年期の音楽は特別なのか:神経科学的説明

2024年にFrontiers in Psychology誌に掲載されたレビューは、音楽的回想バンプの神経科学的基盤を検討している。青年期の脳には、音楽を深く刻み込むための条件が揃っていると考えられている。

報酬系の過敏性:青年期の脳では、腹側線条体(ふくそくせんじょうたい)——快感や動機づけに関わる脳の深部領域——が成人よりも強く活性化することが複数の研究で示されている。音楽は食物や社会的つながりと同じ報酬回路を活性化させるため、この時期に聴いた音楽は特に強い快感と結びつく。

社会的再方向づけ:青年期は家族から仲間へと社会的関心が移行する時期である。音楽は仲間集団のアイデンティティを示す「旗印」として機能し、友情の基盤となる。成人よりも青年の方が友人と一緒に音楽を聴く頻度が高いことが研究で確認されている。

アイデンティティ形成:「自分は誰か」を模索する青年期において、音楽の好みは自己アイデンティティの重要な構成要素となる。この時期に取り込まれた音楽は、生涯にわたる自己物語の一部として統合される。

これらの要因が重なることで、青年期は音楽が深い個人的・感情的意味を獲得するための最適な発達ウィンドウとなる。

好みは変化する:25万人の縦断研究

音楽的回想バンプの存在は、好みが「固定される」ことを意味するのだろうか。ケンブリッジ大学のボンヌヴィル=ルーシー(Bonneville-Roussy)らは、25万人以上のデータを10年以上にわたって分析し、音楽の好みが生涯を通じてどのように変化するかを追跡した。

研究チームは音楽ジャンルを5つの大カテゴリに分類した(MUSICモデル):

  • Mellow(メロウ):エレクトロニカ、R&B——穏やかで感情的な音楽
  • Unpretentious(素朴):カントリー、フォーク、ブルース——飾らない親しみやすい音楽
  • Sophisticated(洗練):ジャズ、クラシック——複雑で芸術的な音楽
  • Intense(激しい):パンク、メタル——攻撃的でエネルギッシュな音楽
  • Contemporary(現代的):ポップ、ラップ——流行を反映した音楽

各カテゴリへの好みは、年齢とともに明確なパターンで変化することが確認された。

青年期(10代):「激しい」音楽への好みが急上昇する。パンクやメタルの攻撃的な響きは、親世代への反抗とアイデンティティの主張に適している。「10代はアイデンティティ確立の欲求に支配されており、音楽はそれを達成するための安価で効果的な手段である」と研究者らは述べている。

成人初期(20代〜30代前半):「激しい」音楽への好みは減少し、「現代的」「メロウ」な音楽への好みが上昇する。この変化は、恋愛関係の構築や社会的受容の追求と関連している。

中年期(30代後半〜):「洗練された」「素朴な」音楽——ジャズ、クラシック、カントリー、フォーク——への好みが増加する。これらは「ポジティブでリラックスした」特性を持ち、家族の責任や社会的地位の向上に伴う生活課題に適応している。

25万人という大規模サンプルに基づくこの知見は、音楽への関与は年齢とともに減少するかもしれないが、音楽は重要であり続け、好む音楽は人生の各段階で直面する「生活課題」に適応していくことを示している。

「23.47歳」説への疑問:再現研究の示唆

1989年、ホルブルック(Holbrook)とシンドラー(Schindler)は影響力のある論文を発表した。人々は23.47歳頃にリリースされた音楽を生涯にわたって最も好む、という「曲特異的年齢」仮説である。

しかし、2021年のコピーツ(Kopiez)らによる再現研究は、この仮説に疑問を投げかけた。2つの独立した再現試験において、23.47歳のピークは確認されなかった。代わりに、嗜好のピークは14.16歳という、はるかに早い時期に観察された。

ただし、これは単一の再現研究であり、結論は暫定的である。元の研究者からは方法論への批判もあり、「臨界期」の正確な年齢についてはさらなる検証が必要である。14歳が「魔法の年齢」かどうかは、現時点では確定していない。

2025年の縦断研究:若者は広く、高齢者は深く

2025年のUMAP学会で発表されたディー・ネグリ(De Negri)らの研究は、大規模な音楽聴取データベースを用いた縦断研究を実施した。

若年リスナーは現代のポピュラー音楽を幅広く聴く傾向があり、嗜好の特殊化は少ない。一方、高齢リスナーはより精緻で個人化された聴取習慣を持ち、音楽的多様性が高い傾向が見られた。

つまり、年齢を重ねるにつれて聴く音楽の「幅」は狭まる一方で、「深さ」は増していく可能性がある。ただし、この研究はプレプリント(査読前論文)であり、結論は今後変更される可能性がある。

あなたの音楽体験に活かすヒント

これらの研究から、日常の音楽体験に活かせる示唆がいくつか得られる。

青春時代の音楽を大切にする:16〜20歳頃に聴いた音楽への愛着は、大規模研究で確認された普遍的現象である。懐かしさを感じることに罪悪感を持つ必要はない。その音楽はあなたのアイデンティティの一部である。

新しい音楽にも心を開く:25万人のデータは、好みが年齢とともに変化することを示している。「もう新しい音楽は楽しめない」と決めつけず、人生の現在の段階に合った音楽を探してみることも一つの選択肢である。

音楽の聴き方を意識する:若い頃は幅広く、年齢を重ねると深く——この傾向を意識することで、自分の音楽体験をより豊かにできるかもしれない。

社会的文脈を活用する:音楽は社会的なつながりを強める力を持つ。友人や家族と音楽を共有することで、より深い記憶として刻まれる。

結論:変わるもの、変わらないもの

複数の大規模研究を総合すると、以下の結論が導かれる。

変わらないもの:16〜20歳頃に聴いた音楽への愛着は生涯を通じて維持される。これは102カ国4,800人以上のデータで確認された普遍的現象であり、文化やジャンルを超えて観察される。青春の音楽は、アイデンティティの一部として脳に刻み込まれている。

変わるもの:好む音楽のスタイルや特性は、人生の各段階で直面する課題に応じて変化する。25万人の縦断データがこれを裏付けている。激しい音楽から洗練された音楽へ、幅広い探索から深い没入へ——音楽の好みは生涯を通じて進化し続ける。

「昔の曲は良かった」という感覚は、決して錯覚ではない。しかし、それは新しい音楽を楽しめなくなることを意味しない。音楽の好みは固定されたものではなく、人生とともに成長し、変化する生きたシステムなのである。


参考文献

Renwick J, Woolhouse MH. Reminiscence bump invariance with respect to genre, age, and country. Music Perception. (2023). 40(5):362-377. DOI: 10.1525/mp.2023.40.5.362

Belfi AM, Kasdan A. Revisiting the musical reminiscence bump: insights from neurocognitive and social brain development in adolescence. Frontiers in Psychology. (2024). 15:1472767. DOI: 10.3389/fpsyg.2024.1472767

Bonneville-Roussy A, Rentfrow PJ, Xu MK, Potter J. Music through the ages: Trends in musical engagement and preferences from adolescence through middle adulthood. Journal of Personality and Social Psychology. (2013). 105(4):703-717. DOI: 10.1037/a0033770

Kopiez R, Weigang J, Platz F, Düvel N. Farewell to Holbrook & Schindler’s (1989) “Song-Specific Age”? – Little Evidence for Lifelong Influence of Age-Specific Musical Preferences. Music & Science. (2021). 4:1-12. DOI: 10.1177/20592043211001794

De Negri L, et al. Soundtracks of Our Lives: How Age Influences Musical Preferences. Proceedings of UMAP 2025. arXiv:2509.08337.

※ 最後の論文はプレプリントであり、査読を経ていない。結論は今後変更される可能性がある。